ジェイソン・カラカニス:6年間でユニコーン6社に投資をしたエンジェル投資家

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Uberをはじめ、数々のユニコーン(時価総額1000億円以上)企業を生み出してきた、エンジェル投資家のJason Calacanis (ジェイソン・カラカニス)の著書『エンジェル投資家』が日本で発売されました。Jasonに関する日本語の情報がまだ少ないので、これを機にまとめてみました。

6年で6社のユニコーンを生み出す

Jason Calacanisに関して特筆すべきなのは、エンジェル投資家としての投資実績です。Uber (時価総額約7.2兆円 ※2018年7月時点)の初期投資家であり、それ以外にも、5社のユニコーンにエンジェル投資をしてきました。5社のユニコーンは2018年7月現在で、Thumbtack、 Robinhood,、Wealthfront、DataStax,、Desktop Metalです。追記:瞑想アプリのCalmもユニコーン入りしたので計7社のユニコーンです。※2019年時点

AngelListには、EvernoteやTumblrのようなユニコーンもポートフォリオとして掲載されていますが、セカンダリーもしくは買収を通じて取得した株式なのか、エンジェル投資で取得したものなのかは、定かではありません。

2010年にUberやThumbtackへの投資を皮切りに、2016年度までに上記のスタートアップにエンジェル投資をしてきました。この6年の期間だけで単純計算をすると、1年に1社のペースでユニコーンへ投資をしてきたことになります。

本人曰く、150社に投資をして、現時点で6社(25社に1社)がユニコーンになっており、今後は150社につき10社の割合でユニコーンへ投資をするのが目標なのだとか。

アウトサイダーからインサイダーに

シリコンバレーの主要な投資家は、裕福なエリート家庭の出身が多いのですが、Jasonはブルックリン出身の貧しい少年から、シリコンバレーのインサイダーへとのし上がった叩き上げの人物です。

Jasonは、ニューヨークでWeblogs, Inc. (Engadgetなどを生み出した会社)をマーク・キューバンからの投資を受け創業。同社をAOLに売却した後、同じAOL傘下のTechCrunchの創業者マイケル・アリントンと共にスタートアップのカンファレンスTechCrunch 50を立ち上げました。2人ともとても癖が強いため、その後仲違いし、TechCrunch DisruptとLAUNCH Festivalというシリコンバレーの2大テックカンファレンスとして、分裂しました。

会社売却後Jasonは、米国の著名VCである、Sequoia Capitalで、スカウトという(元)起業家による投資先紹介プログラムを通じてスタートアップ投資を実体験を通じて学んでいきます。

その後、Jasonはシリコンバレーで最大のテックカンファレンスのひとつであるLAUNCH Festivalや、Jasonがホストする、シリコンバレーで最も有名なYouTubeチャンネル/ポッドキャストのひとつであるThis Week in Startupsなどを通じて、シリコンバレーの中心人物としての地位を確立してきました。

Peter Thielとの対談

その環境を活かし、Jasonの投資案件にクラウドファンディング形式で一般の投資家も参加できるJason’s Syndicateという取り組みも行っています。

率直すぎる人柄

This Week in Startupsを観ると分かるのですが、Jasonはニューヨークスタイルの歯に衣着せぬ物言いが特徴的なエンターテイナーで、時に物議を醸します。

例えば、米国著名アクセラレーターのY Combinatorを卒業した会社に対して、トラクションがろくにないにも関わらず、10億円や15億円の時価総額を平気で提案してくることに苦言を呈したため、一時期YCのデモデイに出禁になりましたw

一方、誰も言えないことを言う率直な人柄が、起業家や投資家から人気を集めている理由でもあります。

私もThis Week in StartupsのJasonの印象が強かったため、弊社がJasonから投資を受けた際には、この人とまともにやっていけるのかと不安に思いましたが、実際に会ってみると、創業者に対して、とてもフレンドリーに接するのが印象的でした。

メールで連絡をすると、数時間以内には返事をくれますし、とても丁寧でまめです。また、Jasonの投資先で倒産した会社の創業者には、次に会社をはじめる時は、また出資するから、一番に俺に電話をかけてこいと言い続けています。

このような、ファウンダーフレンドリーな姿勢が、投資先の創業者から支持される所以ですし、ユニコーンの会社を生み出し続ける秘訣なのかもしれません。

Jasonから投資を受けた経緯は、こちらの記事をどうぞ。

Elon Muskを救ったJason

数々あるJasonの逸話の中で、私のお気に入りは、Elon Muskからテスラの初号機を買った話です。Business Insiderのポッドキャストで、Jason自ら以下の会話を紹介しています。

まだ、TeslaやSpaceXに対して懐疑的な意見が多かった頃、Elon MuskとJasonが、ステーキを食べながら以下のような会話を繰り広げます。

Jason (以下 J):SpaceXの調子はどう?

Elon (以下 E):3号目のロケットが爆発したよ。

J:やばいね。4号目が失敗したらどうなるの?

E:終わりだよ…。会社を続けられなくなる。

J:Teslaの調子はどう?会社の口座残高があと4週間分しかないって噂は本当?

E:それはうそ。

J:良かった!

E:本当は、3週間分しかないんだ。

J:…。それで、どうするの?

E:えっと。とりあえず友達から借金をして生活する。

※Elon MuskはPayPal売却後、多額の資産を手にするが、そのほとんどをTeslaやSpaceXにつぎ込み、自分は友人から借金をして生活していた変態。

J:…。今日は何か良いニュースがあるって聞いたけど?

E:そうそう。これを見せたかったんだ、誰にも言わないでね。

そういって、ElonはBlackBerry (iPhoneじゃないところに時代を感じる)でTesla Model 3の粘土の模型を見せたそうです。※Model 3が計画されたのが2007年で、予約を開始したのが2016年?

その模型を見てJasonが気に入り、2台買うよ!と$50K (約500万円)のチェックを2枚Elon Muskに送ったところ、数年後にRoadsterとThe Xの初号機がJasonの家に送られてきたそうです。Model 3じゃないのかよ。

当時どん底だった、Elon Muskに対して、粘土の模型を見て、いつ発売されるか定かではない電気自動車を購入するため、チェックを書くというJasonの人情味溢れた支援の仕方が印象的なストーリーでした。

エンジェル投資家の意義

Jasonは著書『エンジェル投資家』内で、エンジェル投資の本懐は、リターンだけではなく、世界にインパクトを与える事業を創業者と共に創り、共に夢をみれることにあると述べ、エンジェル投資家という仕事を、以下のように説明しています。

エンジェル投資家として第一の仕事は、揚げ足取り、後ろ向きの批評家、言い訳屋、要するに考えのスケールの小さい人間の言うことに起業家が耳を貸さないよう盾になることだ。小さく考えていれば人間が小さくなる。私はスタートアップの創業者には小さい成功を狙わず、大きな目標を追ってもらいたいと常に考えている。』

日本でもスタートアップの存在が一定の市民権を得られてきた昨今、今後日本においてもエンジェル投資家の意義が一層大きくなることが期待されているのではないでしょうか。この本をきっかけに、日本に少しでも多くのエンジェル投資家が生まれることがあれば、本書は日本のスタートアップ界にとって意義のある一冊になるのではないかと思います。

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Co-founder & CEO of Anyplace (www.anyplace.com) シリコンバレー/サンフランシスコでAnyplaceという事業を作っています。